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年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~
年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~
Author: 綾雅(りょうが)

01.政略結婚は王族の義務ですので

last update Last Updated: 2025-11-11 17:47:48

 婚礼衣装を身にまとい、整えられた赤い絨毯の上を歩く。神殿の厳かな雰囲気に似合いの、柔らかな曲が流れていた。未婚の貴族令嬢が、両側から花びらを撒く。白い花は教会の庭で育てられ、こういった場面で使用されてきた。

 同じ白い花を束ねたブーケを手に、しずしずと歩いた。右足を踏み出して揃え、左足で一歩進んで揃える。まどろっこしいが、花嫁のなら断れない。実際に歩いてみると、裾を踏むこともなかった。実用性もあるのね。

 感心しながら、私はさらに進む。やや俯いているのは、我が国のしきたりだ。花嫁は花婿がヴェールをあげるまで、視線を合わせない。くだらないと思うが、ご先祖様の決めたことは守らないと。

 王であるお父様のエスコートでたどり着いた三段を、一人で登った。お父様が助けてくれるのは段下まで、ここから先は神様の領域だ。新郎新婦と神官様だけが立つことを許される。長い裾を引く私が並ぶのを待って、大神官様が声を張り上げた。

「アリスター・シリル・ソールズベリー、そなたはアンネマリー・カリン・フォン・ヴァイセンブルクを妻として迎え、生涯裏切らぬ愛を捧げることを誓うか」

「ソールズベリーの名誉に懸けて、誓います」

 夫の声は若々しく張りがある。

「アンネマリー・カリン・フォン・ヴァイセンブルク、そなたはアリスター・シリル・ソールズベリーを夫として尽くし、生涯変わらぬ愛を守り通すことを誓うか」

「ヴァイセンブルク王国の名に懸けて、誓います」

 互いに王族ともなれば長い名前が当たり前。読み上げる大神官様が良く噛まないものだと感心する。私なら最低、二回は間違えると思う。夫と妻で文言が違うのは、嫁ぐ側と迎える側の違いだけ。もしアリスター王弟殿下が私の婿に来るなら、誓いは逆になっただろう。

 迎える側は望んだ以上、浮気せずに一途に愛して裏切らないと誓う。望まれた側は婚家を支え、変わらぬ愛……というより、貞操を守る約束を行う。多神教の為、神は一柱ではない。いずれかの神が、この誓いを聞き届けて祝福をくれるのが通例だった。

 今回はピンクの花が降ってきたので、愛と豊穣の女神アルティナ様でしょう。ひらひらと空中から舞ってくる花びらに、金色の光が注いだ。こちらは全能の天上神ゼウシス様? 二柱も祝福を貰えるなんて、とても恵まれている。

「失礼する」

 硬い口調のアリスター王弟殿下は精一杯背伸びして、私のヴェールをそっと捲った。一瞬固まる。もしかして、お好みではなかったかしら? こてりと首を右に倒すが、しゃらんと音を立てて揺れた髪飾りに遮られた。これ以上傾けたら、落ちてしまうわ。

「……っ、綺麗すぎます。女神の化身かもしれない」

 え? いま、なんて?! 聞こえたが、思いがけない言葉だったので目を見開く。近づく夫となるアリスター殿下の顔……整った顔を縁取る黒髪も、優しそうな青い瞳もぼやけて。唇に触れるだけの口付けを受けた。

「これにて、二人の婚姻は成った」

 大神官様が宣言し、結婚式は終わった。ここから私の新しい結婚生活が始まる。問題があるとすれば私の夫は十歳で、年の差は十二歳もある。初夜はどうしたらいいの。

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     私の想像通り、寝室の反対側はシリル様の部屋が広がっていた。執務室を兼ねた書斎やクローゼットも揃っている。お風呂などの隣にあった小部屋について尋ねたら、侍女の控え室だと教えてもらった。 女主人が部屋で過ごす間、控えている場所らしい。棚には本のほか、茶葉やティーカップを揃える人もいるのだとか。なるほどと納得した。だから扉は作らなかったのね。それに、一人分のスペースしかなかった。 ラーラに使ってもらおう。自国では、侍女は壁際に立って待つ。でも座って待ってもいいなら、楽だと思うの。ラーラに後で話しておこう。「それで、なんだけど」 巨大なベッドの端と端に腰掛け、私達は目を合わさず会話をしていた。向き合ったら照れてしまうわ。言いづらいこともあるし……。「はい」「このベッドで一緒に寝ることになる、のは……平気?」「何も問題ございません」 もしかして、初夜に寝ちゃったことを気に病んでいるのかしら。だったら、気にしなくていいと伝えるべき? 触れないのが正解かも。迷いながら振り返れば、シリル様と視線が合った。「その……神殿での夜のことは、なぜか僕達がうまくいったと伝わっていて……そのままにしてもらえると助かる」「承知しました。微笑んで受け流すように致しますね」 男児だもの、初夜に花嫁に手を出さなかったなんて。噂になったら面目が立たない。私だって、年下夫に見向きもされないおばさん扱いされたくなかった。お互いに利益しかないわ。「私もそのほうが良いと思います」「うん、ではそうしてくれ」 王族らしい話し方だけれど、やっぱり子供ね。柔らかく聞こえるし、内容が愛らしいわ。「今日のことなのですが……その……衣装合わせの際に、ディーお義姉様にソベリ語で応対してしまいまして」「はっ?! え! 何か言ってた?」 すごい勢いでベッドに乗り上げるから、離れているのにのけぞってしまった。恐る恐る、ディーお義姉様の提案を口にする。ソベリ語を話せないし、聞こえないフリで情報を引き出すんですって。「ああ、うん。なるほど……その言い訳……言い回しは思いつかなかったな」 言い訳、と言いませんでした? 他に何か理由があるのかしら。こてりと首を傾げた私が「言い訳?」と繰り返したら、困ったように眉尻が下がった。 歳の差があるシリル様は恋愛相手ではないけれど、やっぱり顔がいい。王族って

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  • 年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~   06.驚くほど立派なお部屋だわ

     離宮のお部屋は、すでに滞在準備が整っていた。王宮の侍女達は有能なのね。感心しながらお部屋を見て回る。入り口の正面に応接セット、扉はないけれど隣室にベッドがあった。寝室なのだけれど、ここはもう一つ扉がある。 おそらく、夫になったシリル様のお部屋に繋がっているわ。お父様達のお部屋もそうだったもの。ただ、ヴァイセンブルクの王宮では、寝室の扉があったのよね。首を傾げたものの、慣習の違いでしょうと理解した。 寝室には大きなベッドがあり……なぜ部屋の中央なのかしら。一辺くらい壁に接しているわよね? ど真ん中に置かれ、壁から離れている。よくわからないけれど、別に不自由はないからいいわ。頭の方角は壁に付いていたら、部屋が広く感じられるでしょうね。 自室へ戻れば、左側の手前にアーチ状にくり抜かれた壁がある。中には小さめの部屋があった。窓がなく、壁に向かって机が備え付けられている。正面が棚になっているから、作業用? ラーラも後ろで首を傾げた。「初めて見る造りでございますね」「ええ、本を読むなら静かでいいかも」「書斎はあちらにございましたし、暗いところで本を読むのは疲れます」 違う目的の部屋かもしれない。後でシリル様に聞いてみよう。自室へ戻って隣の扉を開ければ、トイレやお風呂があった。書斎はどこかしら。尋ねたら、ラーラが一つの扉を示した。「こちらでした」「あら、広いのね」 壁一面に本が並ぶ部屋は、窓からの光が差し込んで明るい。扉の先は少し通路になっていて、隠し部屋みたいに感じられた。この通路の幅が、お風呂やトイレの奥行きと同じみたい。歩数で数えて、頭の中に見取り図を描いた。「クローゼットは?」「こちらのようです」 書斎の奥、本棚の影にやや細長い扉がある。案内されて入れば、広いクローゼットがあった。書斎と同じくらいある。お母様のクローゼットでも、こんなに広くないわ。ぽかんと口を開けて見まわし、慌てて手で隠した。はしたない。「すごく広いのね」「ドレスをトルソーで飾るようですね」 大量のトルソーがあるので、ドレスの形が崩れないよう飾っておくみたい。ヴァイセンベルクは潰して吊るしていたから、その違いで広いのね。振り返れば、書斎側の壁に小さな引き出しがびっしりと並んでいた。 本棚と背合わせで、お飾りを入れる棚がある。髪飾りやベルト、ショールなども細かく分けて収

  • 年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~   05.首の包帯が見えちゃったかも

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